心理学研究における『バランス』は取れたのか?:論文数調査

たいそうなタイトルをつけてしまったが、前回のエントリーでの予告通り、ポジティブな側面の研究とネガティブな側面の研究のギャップが、具体的にはいったいどんな状況なのかを調べたので、その結果を紹介したい。『Positive Psychology in Practice』に紹介されているLinley博士とJoseph博士の用いた方法に倣い、簡単ではあるが、心理学研究の経緯をトピックを絞って1961年からの累計出版論文数をまとめてみた(下図参照)。PsycINFOと呼ばれる心理学研究論文のサーチエンジンを使い、ネガティブな側面の研究の1つである「Depression(うつ)」というキーワード、そしてポジティブな側面の研究の1つである「Well-Being(幸福)」というキーワードをもとに、出版された論文の数を5年ごとのまとまりで集計。尚、論文はピア・レビューされたものに限った。

上のグラフからも分かるように、「Depression」に関する研究論文の数は、年を経るごとに勢いよく増えている。反対に、「Well-Being」に関しての研究だが、増加の傾向性がかろうじては見えているものの、圧倒的に論文の数が少ない。「Well-Being」のトピックに限って言えば、セリグマン博士のAPAにおけるスピーチ(1998年)以前の累計論文数の2倍近くの研究が、それ以降から2010年までの間になされてきたことは事実だが、彼の望んだようなバランスは未だ達成されていないように感じる。また、「Depression」に関する研究が多くなされているとはいえ、苦しむ人が未だ多くいることを忘れないでおきたい。

上記分析はあくまで一例に過ぎないが、心理学研究にバランスが欠如していることを示すには十分だろう。ただ、ポジティブ心理学に関して誤解しないでほしいのは、ネガティブな側面を忘れ、ポジティブな側面ばかりを研究すればいい、ということではないという点である。ネガティブな側面における研究も引き続いて行われるべきであり、ポジティブ心理学は、あくまでバランスを取ることの重要性をアピールしていると理解している。特に、ストレス研究のLazarus博士は、

ポジティブ心理学が十分に成功を収めた時、ポジティブ心理学という見方そのものが徐々に消え、ポジティブな側面とネガティブな側面、そしてそれらの相互作用を受け入れた、バランスの取れた心理学をもたらすであろう。

と述べている。ポジティブ組織心理学を学ぶ者としては、ポジティブ心理学がいずれ消えてしまうというこの意見に、多少複雑な気持ちではあるが、これには心から賛成する。そして、やがて実現しゆくべき「バランスの取れた心理学」のために今、ポジティブ心理学が重要な役割を持っているのではないだろうか。今後、自分の研究が少しでもそのために貢献していけるよう願ってやまない。

(具体的な数字を知りたい方、不明な点がある場合は、コメント欄やTwitterでお知らせください。)

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