「元気づけ」のアウトソーシング:いかに「意味」をもって仕事のモチベーションを上げるか?

先週、現プログラムの博士課程1年目を無事終えた。試験2つとペーパーが全て同日にあったのでなかなか体にこたえたが、終了後は解放感に満たされて特に何もすることなく過ごした。それもつかの間、今週から夏の授業が始まるので、改めて体をアカデミックモードに慣らし始めねばと思い、このエントリーを書くことにした。今回紹介したいのは、約一ヶ月前にツイートしたウォートンスクールのアダム・グラント教授の講演内容である。

彼の研究分野は、個人的にも重なる部分が多く、かつてはプロフェッショナルマジシャンとして活躍されていたみたいなので妙に親近感がわく。今所属するプログラムで来学期に彼を招待するような話が出ていたので、実現を心から望みたい。さて、講演内容だが、従業員の感じる仕事をする上での「意味」が、いかに彼らにそして組織全体に影響をもたらすことをうまく説明してくれている。以下、グラント教授の話をまとめたものである。元のビデオには字幕はないが、参考のために付け加えておいた。

直面課題

約7年前、グラント教授(当時は院生)のもとへ、コールセンターを経営する会社のマネージャーからの電話が来た。年間の離職率が400%にも上っていて困っているとのこと。従業員全体が約2ヶ月ごとに辞めてしまうというような現状であった。

この現状に対する問題解決の糸口を見つけたいのと同時に、現存する従業員が熱心に働いていない状況もあった。従って、単に離職率を減らすだけでなく、いかに彼らのモチベーションを上げられるかというのが大きな課題であった。行動レベルにおいては、従業員がいかに真剣に働き(コールの数や、クライアントとの対応時間など)、やがては組織への収入を増やせるかという変化を必要としていた。

彼が会社に足を踏み入れた時、従業員がお互いを励ましあうような標語を掲げているのを発見した。その中でも彼が感銘を受けたものがこちら。

“Doing a good job here is like wetting your pants in a dark suit, you get a warm feeling but no one else notices.”(この仕事をするのは、黒っぽいスーツに身を包んでお漏らしをするようなものだ。自分たちは温かい気分になるが、誰もそれを気づくことはない。)

これらを目にし、この人たちは自分の仕事を意義あるもの、重要なものだと思っているのだろうか?彼らの仕事はちゃんと評価されているのだろうか?これに対して我々には何ができるのだろうか?こういった質問が彼の頭に浮かぶ。

リーダーのスピーチの持つ逆効果

マネージャーたちとの相談の末、まず注目したのはリーダーであった。経営の権威が書いた本にあふれるメッセージの1つ「リーダーの基本的な仕事は元気を与える(Inspire)ことである」との言葉に習い、マネージャーに元気を与えるスピーチをさせ、コールセンターの仕事がどれだけ大事なのか、どう影響を及ぼすのかを調べることになった。ところが、従業員のパフォーマンス、努力等々、様々な結果指数が下がることとなってしまった。

リーダーのスピーチがなぜうまくいかなかったのか?グラント教授はリーダーの元気を与えるスピーチが裏目に出てしまう理由を、スピーカー(話し手)、メッセージ、動機(Motives)の3点にまとめている。1つにリーダーの中には話しべたがいるということ。せっかくのいいメッセージも効果を失ってしまう。2つ目にメッセージ。リーダーはメッセージを伝える際に、自分のことばかりに焦点を絞ってしまう傾向性があるという。最後は、リーダーがなぜそのメッセージを伝えようとしているかという、動機の問題である。従業員には、リーダーが彼らにもっと仕事をさせるためにありとあらゆる手を使うことが分かってしまう。従ってメッセージの信頼性が薄くなってしまう。

「元気づけ」をエンドユーザーにアウトソース

それでは、リーダーではなく、もっと中立的な人間が元気の出るメッセージを送ったらならばどうなるか?

この問題に答えるために会社からグラント教授に与えられたのは5分。この5分を使って仕事の意義をうまく伝えられるは誰か、と考えた際に彼は質問をこう変えた。誰がこの仕事によって恩恵を受けるのか?コールセンターの従業員の稼ぐお金はどこに行くのか?

これらの質問に従い、恩恵を受けているのはコールセンターを利用する大学であり、稼がれたお金は奨学生にたどり着くということが分かった。そして、その奨学生に、どう奨学金を手に入れたか、どう彼らの人生に変化をもたらしたかなどのストーリーを5分間を使って従業員に伝えてもらうことにした。このプロセスをグラント教授は、エンドユーザー(消費者、顧客など)へのインスピレーションのアウトソーシングと呼んだ。

簡単な実験を通して、従業員たちを、奨学生の話を聞く実験グループといくつかの比較グループ(話を聞かない、同じ話を奨学生ではなくリーダーから聞く)に分け、仕事のパフォーマンスを比較した。結果、実験グループの従業員は、比較グループに比べ、コールセンターの電話で過ごす時間が約3倍に跳ね上がり、一時間におけるコール数も約2倍となった。奨学生の話を聞いた従業員は確実に真剣に働くようになっている。さらに収入面においても変化があった。真剣に働くようになった従業員は、週間の収入が500%増加したという。

グラント教授によると、これらから察することができるのは、従業員を元気付ける、動機付ける際のリーダーの役割として、ただメッセージを伝えるだけではないということだ。彼らの仕事がどういった人たちに影響を与えているのか、そのリンクを作ってあげるのがリーダーの役割である、ということであった。

この講演内容はハーバードビジネスレビューの6月号に掲載されるようなのであわせてチェックしていきたい。Grant, A. M. 2011. How customers can rally your troops: End users can energize your workforce far better than your managers can. Forthcoming in Harvard Business Review, June: 97-103.

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  1. 2011年 6月 4日

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